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「私は、貴方にそこまで気を許しているわけじゃない」
「じゃあ、どこまでなら許してくれてるのかな?」
月明かりが部屋を照らす高い開き戸の窓の横、手触りの良いカーテンを背に、腰を抱き寄せられて、白雪は視線を下に反らした。
どこまで許すも何も、常識的に考えてもらえば分かることだ。第一、この状況自体がおかしい。
「私は男です」
「うん、僕も男だけど?」
そうだ、男が男に腰を抱かれて壁に詰め寄られるなんて状況がまず間違っている。そんなものは女性にするべきなのであって、幼馴染にあたる目前の王子様は見た目だって悪くないのだ。女性に今の白雪と同じことをしたら、さぞかし喜ばれるだろう。
「なら、わかるでしょう? 全面的に、間違ってる」
そう間違っている。腰を抱かれている状況も何も。
「こういうことは、女性にするべきだ」
「そうは言っても、ねえ……」
さらに距離が詰められて、髪を避けて耳元に口が寄せられてしまい、体が固まる。
近いという距離ではない。それ以前の問題だ。
それこそ男が男に対して取る距離などでは絶対にない。
「白雪以上に可愛い子もいないし、なにより……」
白い耳に唇が押し当てられて、女性だったら身を震わせて喜びそうな声で、一番厄介な問題を繰りだされる。
「苦手なんだから、しょうがないじゃないか」
そう、一番の問題点はこの王子が女性が苦手……もとい、女性嫌いなのが原因なのだ。
拒否してはいるものの、白雪ですら容姿は美麗だと思っている一国の独身王子。確か今年で二十一歳になったというのに、未だ花嫁や浮ついた女性の噂ひとつも浮かびあがらない。
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