プロローグ

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恋人も仲間も男爵の地位も何もかも失った。今は探偵業でなんとか日銭を漁っている惨めな酔っぱらいに成り果てていた。元、俺と同年代だった中年オヤジからは、俺は陰で浦島太郎と呼ばれているみたいだ。最も竜宮城も乙姫も俺にはなかったが。 そんな俺に、20年前の乙姫が訪ねてきた。 レナ・フィールド。ディテクターバロンを設立したフィールド伯爵の三女。元々は親父さんの押し付けた婚約だったが、俺とレナは馬が合った。生まれの卑しい俺にしてみれば浮世離れしたトコもあったが、それを含めて全てがいとおしかった。 古いオペラハウスの二階の一角に、俺は住み込の探偵事務所を開いていた。ガタイのいいオバサンの甲高い声が響く以外は、家賃の安さの割には広さも申し分ない場所だ。元々は屋根裏部屋だから、人を気にせず煙草が吸える。 探偵というと聞こえはいいが、ほとんどはペットの捜索か浮気の調査かだ。俺と一緒に時代に取り残されたクリスタルブレードは散らかった部屋の何処かで埃にまみれているだろう。
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