プロローグ

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パソコンを叩くカタカタという音が、途切れることなく男の耳に入ってくる。いつもならなんてことのない大合唱だが、今日は疲れも助けてか、いやにうるさく聞こえる。 腕に抱えた大量の書類を落としそうになりながら、男は早足でその部屋を横切り、奥にあるドアを叩いた。ろくに返事も聞かずに部屋に入り、書類をいかつい大きな机の上にうっちゃり、男はソファーへと倒れ込んだ。 「上司の前では、もっと礼儀正しくしてほしいなぁ」 いましがた、目の前に紙の山を乱暴に置かれた男の上司が、不満そうにつぶやいた。 「ぶつぶつ言う前に、それに目ぇ通してください」 「はいはい」 しばらく、薄暗い光の中で、男の上司がパラパラと紙をめくる音と、時折唸るように搾り出す上司の声以外、何も聞こえなくなった。
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