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目の前に見える妙に清々しい景色を、優は眺めていた。
吹き付ける風が、嫌な汗をかいていた首筋に、ヒンヤリとした感覚を運ぶ。
これでやっと解放される……。親からの束縛、そして辛い学校生活から……。
八階建てのこのビルは大分老朽化が進んでおり、優の目の端にも、縦に長く走るひび割れが見えていた。
すでに柵を乗り越えている優の目下に広がる車の列を見ながら、ぼんやりと最後の考え事をしていた。
自殺にもなんだかんだで時間がかかるんだな。
まず第一に飛び降りられるような高い建物がない。いや、建物はあるのだが、屋上へ上がれないのがほとんどなのだ。このビルだって家から自転車で30分とばしたところにやっと見つけた。
「自殺者にやけに冷たい世の中だ」などとぶつぶつ呟きながら、ペダルを漕いだのがつい今朝のことだ。
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