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「……これで残り十個を切ったか」
瓦礫で覆われた暗闇の中、一人の男は己の装束から四角い缶を取り出し、さらにそこから粒状のものを二粒ほど、左の掌に出した。
「……」
それらを、震える手でなんとか自身の口に運び、水分と栄養とを同時に補給する。
「……画期的なものが発明されていて良かった、セトラスくんのおかげだ」
そう呟いた口元にある焦げ茶の髭は、やや長めと言える段階までになり、髪の毛もまた、目のすぐ上にまで伸びてきている。
「……しかし、これほど待っても助けが来んとは、恐らくもうここに仲間はいないのだろう」
嘆息し、己の両脚の方を一瞥する。彼がこの場所に留まっている理由は、他でもない、巨大な瓦礫に両脚とも挟まれてしまい、身動きが取れないからである。彼の大腿部はすでに鬱血し、痛々しい紫色の痣に蝕まれている。痛覚がとうの昔に麻痺していることだけが、せめてもの救いだった。
だが、こうして携帯食料だけでやり過ごして、かなりの時間が経っている。そろそろ缶の中の粒も、底が見え始めるほどに、幾ばくしか残されていなかった。いくら神族といえども、餓えには抗えない。
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