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「キザイアの者に狙われていた……? 彼女が……?」
がたごとと馬車に揺られながら、金髪の騎士デュークはその美しい碧眼を自分の向かい側へ横たわる女、美夜へと向ける。
デュークの正面、美夜の隣へと腰を下ろしたヴィクトルは、美夜に掛けられた毛布を掛け直してやりながら、こくりと首を縦に振った。
「まだ断定は出来ないが、な。 ミヤと会ってすぐ、キザイアの者達に襲われたんだが……
奴等は執拗に俺ばかりを狙って、ミヤを攻撃する気配を見せなかった」
「成る程ね。でも、そう思う要素はそれだけではないんだろう?」
「ああ」
静かにそう言って、ヴィクトルは己の肩を覆っていた藍色のマントを除け、左腕をデュークに晒す。
無残にも服が切り裂かれ、べっとりと血痕の付着しているその様子を見てデュークは半ば驚愕するが、ヴィクトルの腕自体には掠り傷ひとつ付いていないことにすぐさま気が付いた。
「その腕……?」
「恥ずかしい話だが……
光の柱が出現した瞬間、それに気を取られている隙にやられてな。
深い裂傷が2つあったうえに刃物に毒が塗ってあって……危うく命を落とすところだった」
「それを、彼女が治したと?」
「ああ、しかも一瞬で。並の魔術師に出来る芸当ではない」
信じられないと言わんばかりの視線を、デュークは美夜へ向ける。
何か寝言を呟きながら気持ち良さそうに眠っているこの華奢な女が、そのようなことをやってのけたというのか。
しかも、目の前の親友の神妙な様子から察するに、どうやらまだ何かあるようだ。
「しかし、ヴィク。そのような有能な光の魔術師ならば、逆に命を狙われるんじゃないか?」
話の続きを促そうと、デュークが先に口を開く。
ヴィクトルは少々躊躇った後、静かに言葉を紡いだ。
「高度な光の術を、ミヤは使った。だが、それと同程度に高度な……
闇の術も、ミヤは確かに使ったんだ」
「なん、だって……?」
デュークは目を見開き、美夜へと視線を移す。
そのような事は、あり得る筈が無い。
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