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「えー……と……?」
規則的に響く、馬らしき生きものの足音と車輪が地面に擦れるような音。
広くはない板張りで平面な床と、あまり高くない、ゆるやかな弧を描く天井。
それほど豊かではない想像力から察するに、ここは、馬車と呼ばれるものの中……のような気がする。
森の中に居た筈が、何故突然このようなところに。
というか、自分をじっと見ているやたら顔の整った2人のお兄さんは一体。
いや、片方には見覚えがあるのだが……
「ヴィク……?」
隣に腰を降ろしている見覚えのある男に問い掛けると、その男、ヴィクトルは、こくりと小さく頷くことで応えた。
突然状況が変わっていた為か、それによって美夜は心底安堵する。
美夜が落ち着いたことを確認すると、ヴィクトルはゆっくりと言葉を紡いだ。
「森の中で倒れたのを、覚えているか」
「倒れた? わ、わたしが……?」
「覚えていないのか」
美夜は額に手を当てて考え込む。
だが、どれだけ探ってみても、自分が倒れたという記憶は引き出せなかった。
「ヴィクが毒にやられた~……っていう辺りまでは覚えてるんだけど……
って、あぁっ!
傷!! 毒は!?」
突如声を荒げ、美夜は強引にヴィクトルの腕を引き、マントを捲る。
服はそのままだが傷が忽然と消えているのを見て、半ば呆然とした様子で目を瞬かせた。
「あれ……?」
「……傷も毒も、もう大丈夫だ。 これについても覚えていないのか……?」
美夜の突然の奇行に少々驚きつつも、ヴィクトルはそう問い掛ける。
美夜は眉根を寄せて首を捻った。
「んー、ごめん。 全然思い出せない」
言葉を受けて、ヴィクトルは微かに眉を顰める。
魔術を使役した辺りの記憶が、全く無いということか。
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