10人が本棚に入れています
本棚に追加
「城までは、どれくらい掛かるの?」
「そうだな……あと丸1日以上は掛かる。今晩は野営をして、到着は明日の夕方頃になるな」
「そっか、ありがと」
丁寧に返してくれたヴィクトルに礼を述べつつ、美夜は周囲に視線を巡らせてみる。
進行方向と思われる壁の上方にはかまぼこ型の小窓があり、そこから馬の手綱を握っているのであろう人物の頭が見える。
そして逆の方向へ視線を向けると、馬車の入り口であろう場所があり、カーテンで仕切られていた。
「ね、ヴィク、外見ても良い?」
美夜の言葉に、ヴィクトルは少し思案してから答える。
「……ああ。だが、気を付けろ」
「? うん」
何に気を付けるのか思い当たらなかったが、美夜はとりあえず返事をし、入り口へと近づいていく。
入り口の前まで来て膝立ちになると、美夜はわくわくしながらそっとカーテンを開けた。
「うわ……」
外の風景は、何と言い表せば良いか、とにかく壮観だった。
只々広がる若葉色の平野。
その真ん中に敷かれたような一本の道に、うっすらと出来上がった幾つかの馬車の轍。
平野の果て、遠くに広がる深い森。
自分は一体どれくらいの時間気を失っていたのか、随分と遠い。あの場所からこんな所まで来たのだなと、ぼんやりと感慨に耽る。
がたごとと馬車の揺れる気持ちの良い音を聞きながら、美夜は何だか嬉しくなって、目を細めた。
「綺麗だね」
誰に同意を求めるでもなく、美夜は呟く。
すると、ふわりと柔らかい追い風が美夜の頬を撫でた。
美夜は瞳を閉じてその風を全身に受けとめる。
その光景に思わず目を奪われている者が2人もいるなどということには、気付かずに。
野営は何事も無く終わり、翌朝、美夜達は再びアルテミシアへ向けて馬車を走らせる。
王城は、もうすぐそこまで迫っていた。
最初のコメントを投稿しよう!