序章

5/6
前へ
/54ページ
次へ
 公園の中をしばらく歩くと、ぼんやりとした光が見えてくる。  街灯の光などではなく、まるで空間自体が発光しているかのような不思議な光だ。  光の色は紫色で少々不気味な感じがしたが、美夜は臆することなく光の元へと足を進めた。 「何、これ……」  光の源。  公園の広場に広がっていた光景を見て、美夜は目を見開いた。  大きな大きな、発光する線で描かれた円。  その中に繊細に散りばめられた、幾何学的な紋様。  魔方陣。  そんな言葉が、美夜の脳裏を過ぎる。  そう、巨大な魔方陣。  紫色に発光し、妖しくも美しい雰囲気を醸し出すそれは、陳腐ではあるがそうとしか表現の仕様が無かった。 「……宇宙人襲来……?」  場にそぐわぬ言葉を呟きながらも、美夜はまるでそれが義務であるかのように、ふらふらと魔方陣へ近付いていく。  普段の彼女であれば、このような妖しげなものには近寄らない。  実際、彼女の中の冷静な部分は激しく警笛を鳴らしていた。  しかし、確かに聞こえたのだ。  魔方陣の先から、自分を呼ぶ声が。  ざわざわと雑音のように聞こえてくる無数の声。 大半は好意的ではなく、貪欲さと醜悪さを感じさせる不快なものでしか無かったが。  その中に、たったひとつだけ。  助けを求めるかのような、微かな声が聞こえたのだ。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加