商人と奴隷

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「はいよ、これがあんたの服」 そういって、これまでに着たことが無いような豪華な服を渡された。 いや、豪華といってもきっと一般大衆からしたら平凡なレベルなのかもしれない。 そもそも全身にふかふかの体毛を備えているドーマンにとって 服などあまり必要のない物であるので、着る機会が少なかったのである。 着ることがたまにあるとはいえども、奴隷用のみすぼらしい物。服とは呼べないものばかりだった。 服を渡され、手に取り じっと見ていると 「どうした?着かたが分からないのか?」 と言われた。 そして、まさにその通りであった。 ぎくりとばかりに反応すると 「しょうがないな。手を上に。」 「あ…はい」 言われたとおりに、棒にぶらさがるように まっすぐに天井に向けて手を伸ばす。 そこから、ハマ様が 丁寧に袖に腕を通しながら服を着させてくれた。 (これじゃまるで自分が主のようだ…。) そうは思ったが、口に出す勇気もないので 黙ってハマ様の手をそのまま煩わせてしまった。 「尻尾は…通せないな。 ズボンはどうしよう。」 「あ!いえ…あの… どうか自分のことなど気になさらないで下さい…」 とっさに、言ってしまった。 あまりにも申し訳なさすぎて、そのまま黙っていることが出来なかったのである。 ハマ様は、これまでの主達とは確実に違う。 それだけは、疑いようも無いことだと分かった。 それだけに、こうした扱いには不慣れで まだどうして良いのかが全く分からない。 「いや、君 下だけ脱いでうろつくなんて変態じゃん… いいよ。衣服をいろいろ調整してくれる召使さんもこの家にはいるからさ」 「え…」 それでも断るべきであるのに、あるいは自分でやると言うべきであるのに、言葉が見つからなかった。
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