商人と奴隷

10/12
前へ
/146ページ
次へ
「お前は、これまで奴隷として生きてきた。 それはそういう種族として生を授かったからだ。 ......実際はどうであれ人は、口を揃えてそう言うだろう。 君は、どう思う?」 真面目な顔で、瞳をまっすぐに見つめ、ハマ様は自分に質問した。 なんとも、重く暗く真面目な質問だ。 どう答えて良いのかも分からない。 「自分は…自分の生き方に疑問を持ったことなどありません…...。」 とりあえずそう答えたが、 と、言うよりも 持つことを許されなかったと言った方が正しかったのかもしれない、と言った後に思った。 口には、出さなかった。 「そういう教育を、受けてきたのか。」 「…いえ」 ハマ様は何故こんな質問を…? 気にはなったが、やはり 口に出すのは慎んだ。 …奴隷には、認められていない権利が多すぎるものだと改めて痛感する。 聞かれた質問には、必ず答えなくてはいけないというのも、その一つだ。 言いたくないことは言い 言いたいことは言えない この息のつまる食事の中から、 味というものが一切消え去った。 それは、苛立ちややるせなさとは全く違う感情。 1つのことに集中しすぎて 他のことが頭に入らなくなるような、あの感覚に似ている。 「じゃあ、お前がこれから今すぐ自由になれるとしたら、 一体どんな生活をしたい?」 それは、心が射られるような質問だった。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加