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神は宣った。
宇宙は永遠不変の存在である、と。
これは、通説になっていたインフレーション宇宙論を真っ向から否定するものだった。
宇宙にはその誕生の直後に指数関数的な急膨張の時期があったとする説だが、神は、そもそも宇宙には始まりも終わりも無いと仰るのだ。
ドップラー効果による赤方偏移の発見や宇宙背景放射の観測を根拠としたビッグバン宇宙やインフレーション宇宙は、神が直々に否定なされた。
さらに衝撃的なことに、己が時空を超越した存在であるとさえ仰った。
人類にとっての未来も、既に確定した事象であるということだ。
それはつまり、自由意思の否定に他ならない。
自分の思うままに行動した気になっていても、その実それは最初から定められた行動でしかない。
その確定された事象を変更させ得るものは神しかいない。今回の『神の介入』が終了した後、それまでの未来は新たな未来へと書き換えられる。
終いに神は、人類の失敗の原因について触れられた。
人類史に於いて最悪の発明は“言語”であった、と。
言語を通して外界の現象を知覚し、言語を通して思考する。そのプロセス中に誤謬が発生したのだ。
言語と現実世界には差異が必ず生じる。人類が真理に辿り着くことはない、と。
この日を境に世界は一変した。
宇宙論、天文学、量子力学などのブームは去り、鳴りをひそめることとなった。
代わりに耳目を引いたのは、心理学系の分野だった。
認知心理学の見地では、人の意識が入り込めない無意識の研究が進められ、また、言語を持たないとされた動物の思考経路に関する研究も盛んに行われた。
しかし、いずれも実を結ばなかった。言語学も然りである。
一般社会に於いては自由意思の否定が最も影響を与え、自殺が急増した。
無気力となる人間が多数現れ、犯罪に走る者も跡を絶たなかった。
だが、これらは過去の出来事である。
『神の介入』から四半世紀が経過した今、『神の介入』をリアルタイムで経験していない世代が増加しており、社会情勢は安定している。
彼らにとって『神の介入』はキリストの復活と同程度にしか考えられておらず、認知度も五割に満たなかった。
ゴータマ・シッダールタが生まれた直後に七歩歩いて天上天下唯我独尊と言おうが、『神の介入』が行われようが、彼らはどうでも良かったのである。
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