成長の兆し

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お仰向けに倒れそれでも直ぐに立ち上がった修は切り裂かれ邪魔になった服の一部を破り捨て村正を構え直す 「修!」 「修さん!」 二人の声を聞いて此処が何処なのか把握した直後しまったとでも言いそうな表情を浮かべる 「悪い、邪魔したな」 「邪魔したな、じゃないわよボロボロじゃないッ」 「一体どんな修業をしているんですかッ」 傷は直ぐに血のストックで治したが至る所を切り裂かれた衣服を直す事など出来ずそう問い詰められる修だったが何故か二人と視線を合わせようとしない 「何で目を合わせてくれないんですか?」 「なに?疚しいことでもあるの?」 「いや違う違う、今魔眼を発現してるから極力視界に人を入れないようにしているだけだ」 その瞳の色と同じく真っ赤な嘘を吐く 本当はただこの前の事で自分と、クーナと、護衛の為に後を着けていた猫美のみが知っているあの出来事を今だに引き摺って、等の本人は忘れているというのに、顔を合わせてられないのだ さながら、周りを何人もの女性に囲まれながら誰にも手を出そうとしないラブコメ主人公が如くヘタレだった 「でも…」 「修、修業に戻るぞ」 穴の空いた壁を挟んだ向こう側で夕が姿を見せ春の言葉を遮るように凜とした声音が響く 「あぁ直ぐ行く、じゃあな春、冷羅、修業頑張れよ」 「あっ」 返事は聞かず走り去る修の背中を見詰め何も言えずにただ見送る事しか出来なかった二人 「冷羅」 「はい、春さん」 「もっと強くなろう、修が傷付かなくて良いように」 「そうですね、私達が修さんを護りましょう」 普通の日常会話でこの様な事を言えば頭が可笑しいのかと問われる発言でも、今この状況ではこの上なく筋の通ったまかり通った言葉でありバカにした者が蔑まれる程に美しい覚悟だった
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