サンドバッグとチェリーボーイ

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 創立何十周年、という歴史を自慢にするような学校だから、ここはどこもかしこもなんだか煤けていて、いくら掃除しても全然達成感がない。私は自分の当番でもないのに廊下の窓をのんびり雑巾でこすりながら、ぼんやりと外を見ている。  もう景色は冬のものだ。狭い校舎裏は、ただ冷たいコンクリートの壁が道路との間を隔てているだけ。突き当たりに焼却炉が置いてあって、ゴミを捨てるために通る以外は用がない場所だ。  私の目の前を、プラスチックの安物のゴミ箱を提げて彼が通ってゆく。教室の当番だったことは知っていた。だから彼が通るかもしれないことも予想していた。  姿を見られれば嬉しい、とか、そんな純真な恋心ってわけでもないけど、でも、私は彼の姿を見ているのはなんとなく好きだ。それが、いわゆる男と女の恋愛なのかどうかは、まだ中学2年生の私にはよく分からない。周りの子たちが「好きな人」の話を嬉々としてしているのを流し聞きはするけれど、私がそれと同じ気持ちを持っているとはとうてい思えないのだ。  私は、あんなことをしたいとは思えない。べたべた触れ合うようなこと。それがたとえ指の先だろうと、唇だろうと、穴と棒だろうと。
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