サンドバッグとチェリーボーイ

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 羽田慎二、という名前の彼には、友達がいるようには見えなかった。少なくとも学校にいる間は。教室でもその他の場所でも彼は常に独りでいる。でも、私から見ていると、彼は自ら独りでいることを選んでいるように見える。彼の周りの男子たちが、女子の透けるブラの線やら、スカートの中身やら、荷物の中に紛れている生理用ナプキンやら、そんなことについてゲタゲタと下品に話す声が聞こえてくると、決まって彼は眉をしかめて不快そうな顔をしている気がする。私が周りの「恋愛教」にうんざりしているのと同じように、彼もまたそんな類の話には興味を持てないタイプなんじゃないかって想像している。  彼には迷惑なことかもしれないけど、その点で私は彼の唯一の同志だって思っているのだ。恋愛という宗教団体には入信できない同志。  女子が1つのグループに固まれば、そんな話題も避けては通れないから、私は適当に黙ってやりすごしていたりはするのだけれど。その意味では、彼のように、最初から人と距離を置くことができたらどんなに楽だろう、とは、思う。  学校ってめんどくさい。大人ってずるい。  小さい頃からずっと、独りぼっちは悪で仲良しが善だって、さんざん吹き込んでおいて、自分は部屋にこもってパソコンとだけ話してる。そんなに仲良しが善なら、自分たちだって家から出て、人とだけ、付き合っていればいいじゃない。ケータイも、スマートフォンも捨てて。
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