サンドバッグとチェリーボーイ

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   ※  女って生き物は僕にはよく分からない。  同じクラスの鈴木成美は、一緒にいるグループの女子からは明らかにひどい扱いを受けている。  グループのリーダー格の長田茉莉香の席は僕の隣で、休み時間のたびに女子たちは近くに集まってくだらないおしゃべりに花を咲かせている。1学期までの席はこの手の集団に巻き込まれずに済んでいたけど、今の席はそうもいかず、僕は休み時間のたびにふらふらと席を離れるのが日常になってしまった。  あいつらの近くにいるとムカつくだけでいいことがない。特に鈴木に対するひどい悪意は、他人事でも気分が悪くなる。  僕には特に仲のいい友達はいない。その代わり、特段嫌われているわけでもない。しっくり来る言い方を探すなら「ほっとかれてる」ということになるんだと思う。ただ、これはある種、僕自身が望んでいることだから、無視されていて辛いとか、いじめられてるとか、そういうことじゃない。  どうして鈴木は、あんなことをされても長田たちのそばにいるんだろう、と思う。女子の世界はそういうものなのかもしれないが、誰かが1人でいることが許されない世界は息苦しい。それがルールなんだとしたら、僕は自分が女に生まれなかったことを感謝しなきゃならない。  僕にはあんな生き方はとてもじゃないけどできそうにない。  他人が近くにいる、ということ自体、僕にはあまり快適な環境じゃない。学校が集団生活のルールを強いられる場所になっていることについて、誰も今まで異議を唱える人がいないのが僕にはちょっと不思議なんだけど、世間ではそれが「当たり前」らしい。  他人と折り合わなければ社会に出た後で大変になる、みたいなことを言う大人もいるけど、今の僕にはそんなことの必要性がまるで分からない。  だから。  責められていない間くらいは僕は独りでいることを選ぶ。
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