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「……つけられているな」
車が走り出してから少しして、俺は運転席の彼に聞こえるようにそう呟く。
顔は前を向いたまま。
後ろを振り返ろうとはしない。
「……やはりか。後ろの赤い奴か?」
視線だけを動かしてフロントミラーに写る真紅の車を見て、男はそう俺に尋ねた。
「いや。それはただのダミー」
「は?」
「勿論、そいつも振り切る必要があるが、目下のところそれは無視でいい」
腰から拳銃を二丁取り出し、俺は言う。
「この街中で発砲する気か?」
「どうせ捨てる車だろう。それとも、ここで死ぬか?」
「いや――。でもわざわざ撃たずとも振り切りさえすれば――」
「この状況で振り切るなんて概念は――、ない」
その言葉と同時に。
俺は左右のウィンドウを開くと、そのまま外へ向かって発砲した。
サイレンサーは当然つけている。だが、それでも目立たないわけじゃない。
「お、おい!どこに向かって撃っている!?」
「お前は運転に集中しろ」
俺が撃ち抜いたのは車道の両側に停めてあった二台の車。
「次」
そして今度は6階建てマンションの3階のベランダに向けて、銃弾を放つ。
そこに立っていた一人の男が、それを受けて倒れた。
「ま、まさか……ッ!?」
「ああ。既に行く先全てで待ち伏せされているぞ」
後ろを走っていた赤い車の後部座席の窓から、半身だけだした男が此方に銃口を向けた。
痺れを切らしたか。待ち伏せがばれて強行手段に出たな。
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