第一章:少年とは

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警察のご厄介になるのはごめんだ。 先ほどの銃撃戦も多数の人の目に付いただろうから、しばらくすれば警察が動き出すだろう。 それよりも早く、俺たちはこの車で国境を越え、トランクに入っているであろう荷物を目的地まで運ばねばならない。 「あれもか」 俺は再び銃を取り出すと、開いている窓から腕だけを出し、建物の影に向かって発砲する。 そこに隠れていた男性がドサリと倒れた。 その死体を横目に、俺達を乗せた車は走り去る。 「よくもまあ、そう躊躇いなく人間を殺せるな」 「人間じゃないからな」 「成る程。違いない」 男の質問に対する答えは、実のところ微妙に違う。 いや、本来ならば、ナンバーズとしてならば、それで正しく、そうでしかない。 だけど、俺に関して言えば、少しだけ違った。 俺は『正当防衛』しか出来ない。 もっと言えば『正当防衛だと言う大義名分を自分の中でかざさなければ』、人を殺せない。 殺さなければ、自分が殺されるかもしれないから、殺す。 奴らが俺に銃を向けていたから、殺す。 本当は違うかもしれない。それでも『そうかもしれないと言うのを理由にする』ことで、俺は殺人の罪悪感を軽減しようとしているのだ。 そして、それが出来なくなった時、俺が最後に頼るもの。 それが『あの人』だ。 俺の上司。黒い携帯を通じて俺に指示を出し、俺を従わせるあの男。 『あの人』に命令されたから仕方ない。 『自分は殺したくないけれど、命令されたのだから仕方ない』。 そんな、誰も認めないような言い訳をして、俺は人を殺すのだ。 馬鹿馬鹿しい。 俺はいつまでそんな『人間臭い感情』に縛られているのか。 この身は、この精神は、とっくのとうに人間を捨て、ただの空っぽに成り下がっていると言うのに。 その空洞に代わりに入れられたのは、『化け物』そのものだと言うのに。 どうして俺は、こうも弱いのか。 「このまま行ければ、無事終えられそうだな」 男は言う。 「そうだな」 俺は短く、そう返した。
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