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「殺害。次。殺害」
驚くほどの俊敏さで彼は逃げた男たちに追いつくと、その命を次々と奪っていく。
「逃げても無駄だ。お前らは死神に魅入られた」
7人目を射殺。
その全てが、それぞれたった一発の銃弾で行われていた。
「や、やめろ!!許してくれ!!」
最後に残った男が、しりもちをついて後ずさりながら、そう青年に命乞いをした。
「聞き飽きた台詞だな。追い詰められたら人間は皆、そう口にするのか?」
銃口をその眉間に向けながら、青年は一歩一歩、ゆっくりと近づいていく。
トリガーを引けば、すぐにその命を奪えるのに、あえて彼は男に恐怖を与えるため、それをしなかった。
つまり、楽しんでいた。
「た、楽しいのか?こ、こんなことをして!?な、なんで笑っていられるんだ!?」
男は恐怖していた。否、初めから死の恐怖に怯えていたが、今はそれだけではない。
目の前に立つ、青年の異常性に、恐怖していたのだ。
人を殺しながら尚、愉悦の表情が出来る、その青年に対して。
「楽しいさ」
青年は言う。
「――俺は『そう言う風』に生まれたからな」
「な、なに……?」
「殺しを愉しいと思えなきゃ、駄目なんだよ。そうしなきゃ、生きていけない。だから俺はこうして存在する」
「……お、お前、何者だ?」
口を震わせながら、男はそう青年に尋ねた。
今度こそ、青年は笑う。
おかしくて、可笑しくて、オカシクテ、笑う。
あまりに歪で、あまりに不可解で、あまりに荒唐無稽なその質問に。
「何者でもねえよ」
「……は?」
「俺には何も無い。意味も、意義も、必要性も、過去も、未来も、家族も、名前も、繋がりも。だから俺は、――存在しないんだ」
「な――……」
「あばよ」
そうして。
青年は引き金を引いた。
夜の港に、最後の銃声が鳴り響いた。
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