第一章:少年とは

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時計台に一番近い車道の脇に停めてある一台の青い車。 男はそれを指差すと、「後ろに乗ってくれ」と言った。 了承して、男が運転席に座った後、俺は後部座席に乗り込む。 「どこまで行くんですか?」 俺は男に尋ねる。 「敬語はいい。いざと言う時に反応が鈍くなる」 「これは失礼」 言われるまでも無くわかっていたことだが、これでも一応気を遣ったのだ。 相手が『組織内部の人間』ではない可能性も踏まえて、一応の敬意を払った。 依頼人であるのなら、その必要はある。あまり相手の反感を買う態度は好ましくない。 しかし、彼の反応と動きを見るに、彼も『組織内部の人間』なのだろう。 「どこまで行くんだ?」 「向こうの橋を越える」 「じゃあ、国境も越えるんだな?」 「そうだ」 ……外国まで、か。 俺がこの国に来てからまだ半日程度しかたっていないというのに、早速のお別れだ。 「多分、お前の新しい住処もその国になる」 「そうか」 仕事を一つ終えるたび、俺は新たな住居とある程度のお金を与えられる。 俺が一つの場所に長く留まることは決してない。 「No.24だったかな」 「ああ」 「ナンバーズと仕事をするのは、これが初めてだ」 「そうか」 「期待している」 ナンバーズと呼ばれる存在は『組織』の中に25人しかいない。 これから増えることはあるだろうが、多くの人間を抱える『組織』の中で25と言う数字は非常に少ない。 それ故に、組織の人間でもナンバーズと会った事すらないと言う者は少なくない。 元より、この『組織』は仲間同士の情報共有が殆ど無く、繋がりも無い。 そして、殆どの人間が組織の本部も目的も、そのトップに君臨する人間の顔も知らない。 『組織』からの指令は何人もの伝令役を介して伝えられるか、『組織』との連絡専用に用意された媒体(PCであったり、携帯であったり)から、『完全な非通知(逆探知も出来ず、どこから送られて来ているか全くわからない状態)』で伝えられる。 それ故に、この『組織』の正体は完全に不明だ。 それ故に、この『組織』の情報が誰かから漏れることは決してない。 いつ、誰が、『組織』を裏切ってもいいように。 裏切ったところで、何の意味もないように。 そして、誰もが、裏切らないのだ。 『組織』に属する人間の殆どが、『組織』と言う繋がりを失えば、何も無くなってしまう人間ばかりだから。
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