8人が本棚に入れています
本棚に追加
会長さんは心を読んだかなのように一瞬だけ遠い目をした後、もう仕事に戻るね、と一言残して式場内に去っていった。
会長さん…挫けないでね。
僕は勿論、竜も哀愁漂うその背中を敬礼して見送った。
敷地内でゆっくり出来る時間はあるのだけど早速教室に向かおう。
廊下ですれ違う人達は新入生ばかりで先輩達も先生方もいない。
何かの準備に追われているのかな?
教室の数が多くてかなり歩かないといけなかったが、他の教室よりは近くにあった。
「毎日ここに来ると思うと大変だね」
「遠いのは仕方ない。中庭が側にあるから俺としては嫌では無いがな」
「うーん、確かに中庭が近いのは嬉しいんだけどなー」
教室の窓から見える手入れの行き届いた中庭は本当に見事である。
暫く中庭談義で盛り上がっていると、レオが誰かを連れてやって来たようで彼女達の楽しそうな声が聞こえてきた。
「レオが他の女子と来たみたいだな。勇人が誰かを引っ掛けてきたかもしれんが」
何時もの僕ならその時乾いた笑いしか浮かべているだろうが、今回は生返事しか返すことができない。
彼女達の声に反応して振り返ろうとしたその時、中庭の真ん中ほどの位置にある大木に目を奪われたからだ。
一度たりとも此処の樹を見たことはないはずなのに、心のどこかで引っ掛かるものを感じる。
これは確か…
「おい、奏聴こえているのか?」
「ああ、ごめんね。ちょっと考え事しててさ」
「…そうか、ならいい。それよりレオの奴すごい人連れてきたみたいだな」
竜に呼ばれるま固まっていたのか、あの感じは何だったのだろう?
レオが入って来たであろう入口を見て、僕はさらに固まったのであった。
最初のコメントを投稿しよう!