White night

2/5
358人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
俺は白い光に包まれていた。 だが、文化祭のステージに立っているわけでも、某少年漫画の如く光線の撃ち合いをしているわけでもない。俺を睨むように照らす二つの光。それは間違いなく自動車のヘッドライトだった。景色を真っ白に塗りつぶし、網膜を焼き付ける。 光はゆっくりと俺を呑み込んでいく。干潮の海に潮が満ちるように。何故こんなにも一分一秒が長いのか。突然死期が迫った時はよく時が止まるというが、どうやらそれは本当だったようだ。 時が止まったといっても、体は一寸も動かない。だから、この場から逃げ出すのは諦めたし、死ぬことへの恐怖などとうに忘れた。それどころか、この遅滞に苛立ちさえ覚え初めていた。どうしてすぐに死なせてくれないのか。時間ならもっと引き伸ばすべき刹那はもっとなるはずだ。 人の死ぬ瞬間なんてものに一体誰が浸っていたいというか。いるとすれば、そいつはただの狂人だ。 しかし、以上のことが分かったところで、それを誰かに語る機会は恐らく無い。もうすぐ俺は物言わぬ肉塊になってしまうのだから。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!