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大学というコミュニティは、大きいようで意外に小さいものだ。前述で目的のあるトークはできるが、継続はできないと言ったと思う。クラブという場所とは違って、大学は四年もの間、俺に関わり続ける場所だ。
俺の社交性の無さは次第に周囲にばれ始め、少数の俺に対する評価は小さいコミュニティを巡り、俺を知らない人にも伝わった。孤独な人間に誰も近づきたいと思わない。次第に俺に声をかける人間はいなくなっていったのだった。
「ん……壮平、おはよう」
女が目を覚まし、寝起きの甘い声で俺に言った。女はまだベッドで横になっている俺の横でパンツとブラジャーを着けてベッドから出た。そして、洗面所で顔を洗ってタオルで顔を拭きながら戻ってきた女は、俺の視線の先に気付いた。
「ねえ、あの子、あんなところで何しているのかしら?」
「分からない。けれど、毎日ああしているんだ」
「そう……」
何と無い会話だが、俺は気付いた。初めてだ、寝た女が少女の事に気付いて、その事に触れたのは。俺は少女の方を今まで見なかったわけではない。今までも今日のように見ていたのだ。だが、誰も俺にその話をしなかったし、俺の視線の先に興味を持つ女はいなかった。
「私、帰るね」
仕度を終えた女は、まだベッドで横になったままの俺に言った。
「駅まで送ろうか?」
「ううん、ここで大丈夫」
女はそう言うと、俺の方に手を振った後、玄関から早々に出て行った。
“駅まで送ろうか?”――普段は言わない気を遣った言葉。さっきの女の発言があったからだろうか。こんな言葉が自然にこぼれ落ちたのには自分でも驚いたよ。
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