ギブソンと赤いキャミソール

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「私、そんな女に見えた? フフッ」  嫌な顔をする訳でもなく、杏哩は微笑んでいた。子供の言う事を聞くかのように。俺の失礼だったかもしれない発言に杏哩は笑ってくれていたのが救いだった。 「私、そろそろ行くね」  杏哩は腰を上げると、スカートの裾を手で叩いて直す。自分の下から人が去る事に、今まで何も感じた事は無かったが、その時は珍しく少し寂しいと感じる自分に気付いた。 「そうそう。名前、何ていうの? 君の名前」  俺に背を向けて立ち去ろうとした杏哩は、思い出したように振り返り俺に聞いた。 「田中壮平だ」 「壮平か。じゃあ、壮平。またね」  杏哩は笑顔で俺に手を振ると、俺は赤いキャミソールが駅前の雑踏に消えていくのを眺めていた。  杏哩が見えなくなると、俺もギターをハードケースに仕舞い始める。  今日は十分だった。初めて俺の歌を聴く人がいた事を知る事ができたのだから。
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