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俺は俺と似た人物について、杏哩にこれ以上聞く事はしなかった。
大体、俺は自分の事を探られるのも苦手だが、他人を詮索するのも苦手だ。そもそも俺は人にそれ程興味を持った事は無い。だから、いざ打ち明けられた時に、俺は正しい反応ができるか分からないのだ。
だから俺は聞かないし、それが正しいと思っている。
「悪い。今日はもう帰るわ」
俺はそう言うと置いてあった黒のハードケースの留め金を外してギターを片付け始めた。
「え……、まだ一曲しか歌ってないじゃん。何か、私……気に障ることしちゃったかな?」
「いいんだよ。今日はそんな気分じゃなくなっただけ」
俺はギターを持って立ち上がると、杏哩も合わせて立ち上がった。
「杏哩。家は?」
只、何と無しに質問した。だが、俺にとっては珍しい事。杏哩も安心したのかニコッと笑顔で答える。
「このすぐ近くだよ。あっちの方」
杏哩は踵を上げて背伸びしながら駅の向こう側を指差した。
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