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「壮平が来ないかって言ったんじゃん?」
呆れた表情の俺。そんな俺の顔を見て杏哩は言った。
「まあまあ、そんな顔せずに。それに立ち話も何ですから」
言うと杏哩は体を扉の向こうに前のめりにする。俺ん家だ、と俺は独り言のように言った後、仕方なく扉を手で押さえながら杏哩を中へと誘い入れるのだった。
杏哩は嬉しそうに靴を脱ぎ棄てて部屋の中に入っていく。杏哩が部屋の中に消えていくのを見た後、俺は押さえていた扉を離し小さく溜息をついた。
「結構、綺麗にしてるじゃん」
杏哩は俺の部屋を見て言った。部屋はベッドが少し起き抜けのようになっている以外綺麗に片づけられていた。俺の部屋は毎日こんな具合だ。これも俺の几帳面な性格のお陰。
それから、杏哩はざっと部屋を見渡した後、遠慮する事も無くベッドに腰を下ろして細い足を投げ出した。そして、杏哩は無言の俺の表情から何かを読み取ったかのように、口を開き始める。
「今日、雨でしょ? だから、今日は壮平来ないだろうなあって思って。そしたら、昨日ここに住んでる事を教えてくれたでしょ? だから会えるかなって思って来たの」
俺はただ杏哩の話を黙って聞きながら、ベッドの傍の床に置かれたテーブルの横に座り込む。
「ただ、それだけ」
杏哩はさっきの言葉に少し間を空けて言った。それは何かを否定するかのように。
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