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「雨ーー上がったよ!」
見上げた視界には、あの少女の姿は無く、さっきまで降っていた雨が嘘のような綺麗な夕焼けが広がっていた。
俺は雨が上がったとかいう、そんな事は頭に入ってこず、少女が居ないベンチをボーッと見つめていた。
「今日はまた歌いに行けそうだね?」
杏哩は嬉しそうに俺の方に体を向けた。あの少女のいないベランダに興味を惹かれ見つめていた俺だったが、杏哩の視線に気付き、咄嗟に言葉を返した。
「ーーあ、ああ。……いや、今日はもう止めておくよ」
地面も濡れているだろうし……とかいうのは、表向きの言い訳だ。気分が乗らない、それが一番の本心ーー杏哩が来た事、少女が居ない事で。
「えー、何でー?」
「何でも」
詰まらなそうな顔をする杏哩。そんな様子に仕方なく次の提案をする。目的無く誰かを繋ぎ止めるーーそんな事、俺にとっては珍しかった。
「代わりにウチで飯でも食べて行くか?」
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