5人が本棚に入れています
本棚に追加
創設当時、中途半端なファン精神で書き込まれるBBSに、俺は居ても立ってもいられなくなってレスを返した。
彼女の歌声は、存在意義の分からなかった俺に生きる意味を与えてくれた――俺という殻を被った何かが息を吹き返した気がした。
そんな彼女がこのBBSの書き込みに曲げられていくのが俺は許せなかったのだ。
俺は必死で書き込んだ――自分の中の彼女を。俺には奴らを否定するだけの知識と思いは十分にあった。俺のせいでサイトを離れた奴もいただろう。しかし、俺はいつしかここに必要な人間になっていたのだ。
「壮平はCDいっぱい持ってるんだね」
起きてベッドを離れた女は、俺のCDラックに気付き、その前で座り込んだ。
「けど……メメントのCDばっかり」
女はラックに並べられたCDの背表紙を見て言う。
「好きなんだ。彼女が」
俺は一言だけ返事をすると、大学に行かなければいけない事を告げ、女に家を出る準備をさせた。
そして、もう二度と会う事もないだろうと思いながら、玄関で女を見送り、俺は部屋の扉を閉めた。
最初のコメントを投稿しよう!