ヴァニタスと二者択一

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 今日も誰一人立ち止まらないまま、俺は演奏を終えて立ち去ろうとする。  気付いただろ? 俺は今日、朝の名も知らない女以外に誰とも会話をしていないのだ。  それって変な事なのか? 俺にとって、それが皆に悲観される事が理解できない。  逆に人と関わる事が、自分を苦しめる事があるというのに。  それはヴァニタスでも明らかだ。  俺は一日誰一人として“関わらない”わけではない。言葉は発しないが、ヴァニタスのBBSという電子上に、文字で人と関わっている。  ここは、一見同じ嗜好を持つ者同士が仲良く集うコミュニティのように見える。  しかし、現実世界と変わらない。人が優劣を格付け合い、自分の知識やどれ程の愛を持っているか競い合う。ここから外れた者は現実世界と同じで居場所を無くし去って行く事になる。  人と関わらなければ生まれなかった悲しみが生まれる。こんなリスクを伴う事を冒す事が必要な理由も分からない。  兎に角だ。俺は今の生き方を変えようとは思わないし、変えるメリットも感じていないのだ。
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