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「あの文に、何が書いてある?」
全て見透かされるように、土方さんの視線は私に突き刺さった。
なんで手紙の内容を聞くのかなんてことは、やっぱり土方さんの観察眼が優れているからだと思う。
私は表情に出しすぎた。
周りの目を気にしすぎた。
私をこの時代の人間じゃないと知り、勘のいい者であれば、手紙を読んで行動にボロが出ている私を見てすぐにわかるはずだ。
手紙に何か重要なこと……未来のことが書いてあると。
それでも、
「……言えません」
私の口からは言うことができない。
土方さんの鋭い視線に負けぬよう、私も負けじとキッと見返した。
「…お前の言葉によって未来を変えられる。隊内の死者を減らすこともできるかもしれねぇ。それでも言わねぇか」
「…それでも、言えないです」
土方さんの言葉を聞いたとき、一瞬ある一人の顔が浮かんだ。
―沖田さん
私は池田屋で沖田さんが熱中症にならないよう水を飲ませた。
土方さんに手紙の内容を話せば、こんな些細なことでも全員で対策できることだってできるかもしれない。
少し考えが揺らぎ、瞳が泳ぐ。
それを土方さんが見逃すわけはなかった。
「…時間をやる。考えておけ」
「………。」
こういうときはどうすればいいのかな…
ただ、私の言葉によって救える命があるならば進んで協力したい。
土方さんの言葉に返す言葉もなく、黙り込んだ。
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