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「俺ね、桑田さんと母校おんなじなんすよ。しかもあの県内最弱野球部・・・・・」
野球か、懐かしいな。なんだこいつ本当だったら会社に入ってくるずっと前から俺の後輩だったのか。
「甲子園出場を果たしてそれを塗り替えてくれたのが当時のエース、背番号4番桑田一郎、あんただよ。伝説はまったく錆びずに俺の代まで回ってきた。練習器具もなければ野球を知ってる顧問もつかない。しまいには野球部の墓場って言われたうちの部活であんたら代は希望の光だった」
そういえばそんな栄光の時代もあった。目頭が熱くなってきた。辛かった練習の日々が、仲間達と過ごした青春が(仲間達の顔は思い出せないけど)追憶として蘇る。
「結局俺んち代も強くはなれなかったけど、あんたはずっと俺の憧れだったんだ。だからこの会社にあんたがいるって聞いた時、迷わずにここに転職した。伝説の先輩と一緒に過ごせてマジ嬉しかったっすよ。次に生まれ変わってもし出会えたならキャッチボールぐらいしてくださいね」
宣言通り今から自殺を実行しようとしているこのバカな部下を本気で止めてやりたいのだが、俺だって死にたくない。本来なら未来を託すべきこの若者に犠牲になってもらえばもしかしたら自分だけは生き残れるかもしれない、そんな考えが頭をよぎる。俺はクズだ。
小さくなった背中にかけてやる言葉が見つからず、戸惑いつつも「おう」とだけ小さく返すことしかできなかった。
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