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「それで見てください桑田さん」
斎藤の指差す先には万年平社員と囁かれる富田がいた。仕事はいちおう人並みにこなすのだが、なにしろかなりマイペースな性分のようで毎日が残業三昧のいかにも気弱そうな男だ。
「富田がどうした」
「気をつけてくださいよ。社員で富田の引き出しの中にゲイだと疑わざるをえない代物をたくさん見たってやつが結構いるんです。しかも桑田さんぐらいの歳が好物らしいっすよ。おまけに知ってるでしょ?あいつと残業してた人何人か神隠しにあってるじゃないですか」
「だが所詮それは単なる偶然で・・・」
「偶然で何人も消えちゃいますかね?俺はどう考えてもしらばっくれてやがる富田が怪しいとにらんでますが。ま、桑田さんにそっち系の趣味があるのなら話は別っすけどねー」
「な、なにを言ってるんだこのバカッ!」
「冗談ですよ。これでもなんだかんだいって尊敬してるんすからがっかりさせないでくださいね。奥さんもいるんだし。それじゃ失礼します」
斎藤は今日一番のお辞儀を見せたかと思うと去っていった。尊敬してる、か。そんな台詞投げつけられたの久しぶりだな・・・・。
それはそうと大変なことになった。斎藤の言うことが本当ならさっさとコピーを終わらせて早々に帰るべきだ。家には肩身狭い思いを強いられるとしても待っている嫁がいる。娘がいる。それを今度はホモだとかって罵倒が加われば精神科一直線かもしれない。
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