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「なんだ?・・・ひっ」
骨が変形しているという言い方が正しいだろうか、富田の体は骨が折れるような音を出しながら異形の姿へと変貌していく。額からは鬼を彷彿とさせる二本の角、身体中からびっしりと真っ黒な剛毛が生え、スーツを破って計四本の腕が伸びた。
逃げなければ殺される、本能的にわかっていても足がすくんで動かない。
「ふうぅぅぅ」
音が鳴り止むと閉じられていた目が開かれた。二つしかなかった目は三つに増え、瞳はまるで高血圧でドロドロとした血液のような赤。虫化した口を開いて発した言葉はもはや富田の声ではなかった。
「俺は元はスカベンジャー(死骸を補食する種族)で死骸を食い慣れてるから、お前みたいに皺が生えたジジイババアの肉が大好物だ」
一歩、また一歩と距離を詰められる。斎藤の言っていた神隠し・・・そういえば被害者は全員定年期であった。もう明日は見えない。本当に俺はここで死ぬのか。あまりにも理不尽だ。
今まで妻には娘には残せたものはあったか?これが生きてきた証だと胸を張って言える功績があるか?まだ駆け出しの斎藤の尻叩きはこれから誰がやる?江崎は?会社は?
「ほら泣くな。一瞬で終わる。今まであなたの下でどうもお世話になりました」
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