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その日はエイプリルフールだった。特にすることもなかった僕らは、いつものように僕の部屋に集まると適当にビールを飲み始めた。
その日はエイプリルフールだったので、退屈な僕らはひとつのゲームを思い付いた。
「嘘をつきながら喋り、そしてそれを皆で聞いて酒の肴にする」くだらないゲームだ。だけど、そのくだらなさが良かった。
トップバッターは僕で、この夏ナンパした女が妊娠して実は今、一児の父なんだ、という話をした。
初めて知ったのだが、「嘘をついてみろ」と言われた場合、人は100%の嘘をつくことはできない。
僕の場合、夏にナンパはしてないけど当時の彼女は妊娠したし、一児の父ではないけれど背中に水子は背負っている。
どいつがどんな嘘をついているかはなかなか見抜けない。見抜けないからこそ、楽しい。
そうやって順繰りに嘘は進み、最後の奴にバトンが回った。
そいつは、ちびり、とビールを舐めると申し訳なさそうにこう言った。
「俺はみんなみたいに器用に嘘はつけないから、ひとつ、作り話をするよ」
「なんだよそれ。趣旨と違うじゃねえか」
「まあいいから聞けよ。退屈はさせないからさ」
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