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「めちゃくちゃだよ。どれを選んでもあまりに救いがないじゃないか。馬鹿らしい話だよ。でもその状況を馬鹿らしいなんて思うことはできなかった。それどころか僕は恐怖でガタガタと震えた。それくらいあそこの雰囲気は異様で、有無を言わせないものがあった」 「そして僕は考えた。どこかの見知らぬ多数の命か、すぐそばの見知らぬ一つの命か、一番近くのよく知る命か。進まなければ確実に死ぬ。それは『みっつめ』の選択になるんだろうか。嫌だ。何も分からないまま死にたくはない。一つの命か多くの命か? そんなものは比べるまでもない」 「寝袋の脇には大振りの鉈があった。僕は静かに鉈を手に取るとゆっくり振り上げ、動かない芋虫のような寝袋に向かって鉈を振り下ろした。ぐちゃ。鈍い音が、感覚が伝わる。次のドアが開いた気配はない。もう一度鉈を振るう。ぐちゃ。顔の見えない匿名性が罪悪感を麻痺させる」 「もう一度鉈を振り上げたところで、かちゃり、と音がしてドアが開いた。右手のテレビの画面からは、色のない瞳をした餓鬼がぎょろりとした眼でこちらを覗き返していた」
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