幼馴染「……童貞、なの?」 男「 」

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 禁煙席を見渡してから少し後悔する。平日の夕方は、学生たちで賑わっている。  騒がしい。  空いている席につく。ちょうど後ろに騒がしい集団がいた。どいつもこいつも茶髪。なんで染めるんだろう、と思う。  お洒落感覚? ちょっと理解できない。明らかに似合ってないのに。派手な化粧も着飾った服もバッグだけシックなところとか。  要するに見栄っ張りなのかも知れないな、と考えてから、自分が異様にイライラしていることに気付く。  妹が心配そうにこちらを見ていた。  それには反応せずに問いかける。 「何にする?」  メニュー表を眺めながら、意識は別のところを飛んでいた。  騒がしい場所に来ると、自分の存在が希薄になっていくような気がしてすごくいやなのだ。  店員が水を持ってくる。テーブルの脇に置かれたそれに手を伸ばして口をつけた。水は好きだ。  飲み込んだ瞬間、後ろの席でどっと笑い声が沸く。  楽しそうで結構なことだ。  メニューを決めて呼び出しボタンを押す。天井脇のパネルに赤いデジタル文字が点灯するのが位置的によく見えた。注文を終えて溜息をつくと同時に、店内の雑音にまぎれて俺の耳に届く声があった。 「先輩?」  脇を見ると中学時代の後輩がいた。妹が慌てて挨拶をする。俺の後輩であると同時に妹の先輩でもある。 「中学生がこんな時間まで何をしているのか」  後輩は困ったように笑った。 「今から帰るとこス」 「五時のサイレンが鳴ったら帰るようにしろよ。誘拐されるぞ」 「いや先輩、このあたりサイレン聞こえないって」 「じゃあ携帯くらい見ればいい」 「鳴らない携帯なんて持ち歩かないし」 「鳴らないの?」 「やー、あの。先輩、あれだ。私ぼっち」 「ああ、だもんな、おまえ」
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