空白の24時。

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空白の24時。

22:50 男は車を飛ばし急いでいた。 女は口紅を塗り直していた。 23:10 男は缶コーヒーを空け、 また飛ばし始める。 女は背中のファスナーを上げ クロークからコートを取り出す。 23:25 男はふとラジオをつける。 バスのスリップ事故で 高速一部通行止め。 ハンドルを両手で軽く叩く。 女はマニキュアに十分配慮しながらブーツを磨いていた。 23:45 男は意を決し車を停め、 携帯電話を取る。 女は手に付いた靴クリームを落とすべく念入りに手を洗っていた。 23:50 男は相手が電話に出ないまま、 諦めていた。 遠く空を見上げた。 女は部屋を出て歩道の脇から 通りゆく車を見つめていた。 23:55 男はもう一度電話を手にする。 女はポケットから 携帯電話を取り出す。 24:00 男は遠い空を見つめた。 女はビルのすき間を見つめた。 2人の瞳に映る灯りが消えた。 電話ごしに2人が 照れ笑いをしていた。 とても幸せそうだった。 暖かく涼しい風が吹く 午前0時。 光を纏う、東京タワー・ドリームズ 恋人たちのセレナーデ 愛し合う者たちへのララバイ。 *フィクション
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