女川圭一郎が振り返る理由

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「あ、いえ大丈夫です」 「何かあればお申し付けください」 店員は小さく会釈して俺たちから少し離れた位置に移動する。 俺が普段買う店ならサイズなど頼みもしてないのに「お出し」してきて、似たようなものやら人気商品、比較的買いやすい安い商品などを次から次と並べ出して来る。 それこそ、辞書の『押し売り』という項目に挿し絵で使えるくらい商品を並べてくるものだ。 それにそれら出された商品に触れようものならすぐに試着させようとする。 それに比べてこの店はあまりに控え目な対応だ。 少し離れた位置でじっと見ている。 一見買いやすそうだが、その目線は話しかけられるよりプレッシャーを感じる。 居たたまれなくなった俺たちはその場から離れると店員は 「ありがとうございました」 といって、形式的に頭を下げ、俺が持っていたシャツをすぐに綺麗にたたみ始める。 『慇懃無礼』の挿し絵はアレで決まりだなと俺は辞書の編集者のように考えていた。
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