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声が聞こえなくなっても僕たちはしばらくその場で何も言えず黙って座っていた。
気まずさのあまり僕は一ノ瀬さんの方を見れなかった。
だが彼女の肩が僕に触れて気付いた。
彼女は肩を震わせて俯いて顔に手を当てていた。
泣き声は聞こえない。
だけどどう見たって泣いているのは間違いない。
何もかけられる言葉を持っていない僕は黙って一ノ瀬さんの肩を抱いた。
愛とか恋とかそういうものじゃない。
阻害されたものの悲しみを知る人間の、阻害された人間への対処法だった。
夏目はよく知っている。
こういう時はいかなる慰めの言葉も無意味であると言うことを。
彼女の肩の震えが治まるまでずっとそうして一言もしゃべらず、夏目は彼女の肩を抱いていた。
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