女川圭一郎が脇役であることに自ら気付いた理由

3/15
前へ
/364ページ
次へ
港に面した公園のベンチに座り、時田は時折見せるぼぅっとしているのか物憂げに悩んでいるのか分からない表情をして海を見つめていた。 既に6月も後半に差し掛かっており、よく晴れた今日のような日は汗ばむくらいの陽気であった。 「時田は大学卒業してから倉持とはどうなったの?」 俺はずっと聞きたかったことを何気ない素振りで、あえて時田の方を見ずに海を眺めながら尋ねた。 倉持という大学時代の恋人の名前を不意に出された時田は一瞬だけ体を強張らせたように見えたが、すぐに元通りの穏やかな気配に戻った。 「別れたよ……」 「そうなんだ」 ゆっくりと返事をする時田に俺もゆっくりと相槌を打つ。 本当は聞きたいことも沢山あったが、時田がそれについて語りたいとも思えないし、聞いたところでどうなるものでもない。 俺はただ海鳥が舞うのを眺めながらぼんやりとすることを、無理にも心掛けた。
/364ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加