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「すいません。通してください」
勇気を振り絞ってこれが精一杯。
不誠実男は「すいません」と謝り、そそくさと退く。
名札を見ると『貴志』と書かれている。
僕はしてやったりの気分で堂々とレジで待つ下山田さんの方へと向かう。
「いらっしゃいませ」
下山田さんは勤務中ということで礼儀正しい挨拶をしてくるが、表情は同級生を接客するという恥ずかしさがあるのかはにかんでいる。
ヘアピンが学校にいたときのチェックの柄でからクジラのヘアピンに変わっていることに気付いた。
ファッションにこだわりをもたなさそうな下山田さんの唯一のこだわりのファッションはこのヘアピンだ。
何種類も持っているらしく頻繁に替えている。
恐らくこの事実に気付いているのは僕くらいだ。
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