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蓮side
「 時田、お前、何ミコト言いくるめてんだよ?
俺はお前と旅行なんて行かないって言ったよな?」
ミコトから、『旅行楽しみだね』と、嬉しそうなメールが来た翌日。
大学の講義室の前で、女に囲まれている時田を見つけて、苛立ちをぶつけながら近寄った。
「きゃー!浅倉くん!」
「えー一樹!浅倉くんと旅行行くの?
いいなあ、私も行きたーい!」
「私も!私も!」
キャイキャイ煩い外野に、冷たい視線を向ける。
「……ごめん。ちょっと、黙っててもらえるかな?」
俺の言葉に、ピタリとさえずるのを止めた彼女たちは、サササーッと潮が引くように離れはしたが、ある一定の距離まで行くと立ち止まり、遠巻きに俺達を伺い出した。
「旅行って浅倉くんと一樹、二人きりで行くのかしら?」
「え?男二人で?それって、まさか…………二人は、そう言うことなの?」
「きゃー、そんなのやだ!いい男が二人もなんてもったいない!」
「………あ、でも私、一樹と浅倉くんならアリかも」
「私も………なくはない」
「え?じゃあ、その場合、受けはやっぱり浅倉くんだよね?」
ブルッと身震いして、腕をさすった。
彼女たちが何を言っているのか、遠すぎていまいち聞こえづらいが、なんだか向こうから淀んだ不(腐)の空気を感じる。
ダメだ。妙に寒気がしてきた。
少し青ざめながら時田を引っ張り講義室を離れる。
「きゃー!
浅倉くんたら強引!」
嬉しそうな叫び声は、耳を閉じて聞かないことにした。
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