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真由side
「ってことでさ。
イタリアはやめて、国内にしたから!」
旅行雑誌を手にした一樹が、ニコニコ笑いながら小首を傾げる。
「…………」
日曜の午後。
お気に入りのソファーに座り、雑誌を読んでいた私は、そんな彼を横目に見て溜め息を吐いた。
一樹が旅行に行きたいと言い出したのは先週のこと。
ゴールデンウィークを利用しての4泊5日のイタリアの旅行。
恐らく前々から企画していたのかもしれないけど。
「ごめんなさい。ゴールデンウィークの最後の2日間はお母様とブランドの新作発表会に行く約束をしているの」
母との約束を違えることは出来なくて、私はあっさりと一樹を切り捨てた。
一樹には悪いけど、母は最優先なのだから仕方がない。
不満げな彼に罪悪感を感じながらも、予定変更は出来ないから、見て見ぬふりで放置していたのだけれど。
「浅倉っちも佐和ちゃんも誘ったし、チケットも手配したよ。
真由ももちろん大丈夫だよね?」
「…………」
…………結果、蓮と佐和さんも巻き込まれた、と…。
外堀から固めていくやり方は、実に策士の一樹らしいと思う。
「温泉旅館にしたから。
内風呂も檜だよ。真由温泉好きでしょ?」
「………」
嬉しそうに笑う彼に、もう一度溜め息をもらす。
本当はサークルの集まりがあるんだけど、………仕方ないわ。それは断ろう。
2泊なら、母との約束には響かないし。
「…………楽しみね」
ふっと小さく笑う。
一樹は満足そうな笑顔を浮かべて、私のこめかみにキスをした。
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