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蓮side
「 え?吉仲先輩、なんで怒ってるの?
あ、一人で行っちゃった。大丈夫かな?」
オロオロ心配するミコトが、時田と真由を見比べる。
意気消沈してる時田なんてそんなに見れるものではないから、ちょっと面白いものが見れたなと視線を向けていた俺は、青ざめた顔のミコトに気づいて、慌てて口を開いた。
「ああ。ごめん。言い方が悪かったよね。
吉仲先輩は怒ってるわけじゃないんだ」
言いながらミコトの髪をなでる。
彼女はクエスチョンマークを浮かべながら俺を見上げた。
「怒ってないの?」
「吉仲先輩は、多分俺たちに気を使ったんだと思うよ」
「?」
ますます、クエスチョンマークを増やすミコトに苦笑する。
「吉仲先輩がいたら、時田が彼女を優先して行動するだろ?それじゃあ、俺たちが好きなとこ回れないから、わざと別行動してくれたんだよ」
噛み砕いた俺の説明に、
「…………ふぅん。蓮くん、吉仲先輩のことよく分かってるんだね………」
ミコトは複雑な顔で頷いて、頬にかかる髪を耳にかけた。
「…….どうかした?」
様子がおかしい気がして、ミコトの顔を覗きこむ。
彼女は一瞬、上目使いに俺を見て、
「……なんでもないよ」
と首を横にふって、小さく笑った。
ひと月ぶりに会う彼女は、少し変わった気がする。
髪が少し伸びて、大人っぽくなった。
高校の時はしていなかった化粧も、うっすらとだけど、彼女を彩っている。
どんどん変化していくミコトを側で見ていられないのは、かなりもどかしい。
でも、それが俺たちの決めた道だから…………
「さーわちゃん」
不意にカンにさわる声がして、ミコトの体が後ろに傾いだ。
「せっかくフリーパスチケット買ったのに、アミューズメント、全然行けてなかったよね。
あ。デジタルホラーハウスだ。十五分待ちだって。あそこから行こうか」
「ええっ!お化け屋敷は苦手………きゃあっ」
「時田!ちょっと待て!」
伸ばした手が空を掴む。
「佐和ちゃんはもらった!」
ニヤリと笑って、走り出す時田に、足をとられてよろめきながら、ミコトが引っ張られていく。
くそ、真由がいなくなった途端、自己中復活かよ!
真由も気を使うなら、あいつを鎖に繋いでいくべきなんじゃないのか?!
「あいつ、絶対殺す!」
俺は自己中魔王からミコトを奪還すべく、二人の後を追って駆け出した。
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