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真由side
「だーかーらー俺は浅倉っちと一緒の部屋がいいのっ」
テーマパークから電車で小一時間程度、訪れたのは明治創業の格式あるお宿だった。
平成になってから建築された離れを二部屋予約していたらしい一樹は、着いた途端、蓮と部屋割りで揉め始めた。
テーマパークでも、私がいない間に、二人でいさかいを起こしていたらしい。
「あら、あの二人意外と仲がいいのね」と言うと
「え、あれって仲いいんですか?」と佐和さんは不思議そうな顔をしていた。
まあ、仲がいいって言うのには語弊はあるかもしれないけど、一樹と喧嘩できる人物なんて、かなり貴重だと思う。
彼はどこか他人と壁を作るところがあって、本音で話せる相手なんて、今までいなかったハズだから。
「嫌だ。なんでお前と同室に泊まらないといけないんだ」
ブスッとした蓮が、一樹を睨み付ける。
「えー浅倉っちったら、イヤらしい。佐和ちゃんと同室になってなにする気だよ。このムッツリスケベ」
揶揄するような一樹の言葉に、
「時田、その口縫い付けてやろうか?」
怒りに顔をひきつらせる蓮と、真っ赤になってうつむく佐和さん。
蓮は普段は大人びているのに、一樹といると急に子供っぽくなる。
彼もそれだけ気を許しているってことなんだろう。
「一樹、蓮。
喧嘩は後になさい」
ロビーで揉めるのは迷惑なので、一旦仲居さんに部屋に案内してもらうことにした。
間接照明が足元を柔らかく照す清潔な廊下を進む。
離れの部屋は横並びになっていて、
「こちらが菖蒲、隣が芙蓉の間です」
と、仲居さんが木の格子戸を開けてくれた。
二間つづきの広い部屋。
「じゃあ、私と佐和さんは芙蓉にいるから。二人仲良くね」
振り返って、後ろに立つ二人に手をふる。
苦虫を噛み潰したような蓮の顔にクスリと笑いながら、私は佐和さんを促して部屋に足を踏み入れた。
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