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高倉教授の助手、渡辺くんside←ツッコミナシ
「渡辺くん!3Dプロジェクションマッピングは素晴らしかったね!」
夜8時半。
すっかり暗くなったテーマパークの道を出口に向かいながら、大興奮の教授が、首からトニートニー○ョッパーのスーベニアを下げて、スキップを踏んでいる。
胸には○ニー号で記念撮影して作った、恥ずかしい缶バッチ。頭にはさらに恥ずかしいル○ィの麦わら帽子をかぶっている。
ビシッとした焦げ茶のスーツに不似合いな、なんともご機嫌と言うか、うかれた格好だ。
隣に並ぶのを躊躇った僕は3歩下がって、お供することにした。
因みに3Dほにゃららとは、プロジェクターを用いて、空間と映像を合成させる、新しい空間演出のことだ。
まるで建物自体が動き出したかのような奇想天外な演出に教授は大興奮なさっていた。
まあ、あまりのご興奮ぶりに、若干引いた僕は、少し離れた場所で教授を見守ることにしたわけだけれども。
「しかしサ○ー号のクオリティは高かったね!
大きさには迫力があるし、外見ばかりではなく船内まで忠実に再現してあるとは、感動ものだったよ!
ミ○ークの船やメ○ー号も堪能できたし、限定グッズも買えた。
明日はシャボン○ィハウスのサン○のレストランに行って、ライドクルーズとボンボヤージにも乗るよ!」
「……………」
恐らく、このテーマパークに来た当初の目的は、すっかり失念なさっているのだろう。
大好きなアニメ、ワン○ースの主題歌を楽しげに口ずさむ教授から、さらに10歩ほど離れてみる。
ハンサムなナイスミドルの奇行に、周囲の人の視線は生暖かい。
まだテーマパーク内だから許されているのだろうが、現実世界に戻ったら、変態扱いされること必至だ。
まあ、教授が変態なんて今に始まったことではないけれど。
「ウィーアー!」
拳を突き上げながら、高らかに歌い上げて、やりきった笑顔の高倉教授。
自由だなあの人。
あんな変態に目をつけられた浅倉くんは、今後大変だろう。
同情を禁じ得ない。
「渡辺くん!どうしてそんなに離れているんだい?さあ共に歌おうじゃないか!」
「ハハハ。いえ、僕は音痴なので結構です」
「恥ずかしがることはないよ!さあ一緒に!」
「ハハハ、すみません。めっちゃ恥ずかしいです」
「世界じゅーの海を股にかけーてゆくぅぅ♪」
「…………」
まあ今現在、一番大変なのは、他の誰でもなく、この僕なんだけどね。
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