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蓮side
真由と時田は明日の予定があるらしく、帰りは新幹線と飛行機に別れることになった。
ようやく時田から解放されると思うと、喜びからか、どっと疲れが出てくる。
こいつと旅行なんて、もう二度とごめんだ。
「空港で真由をひとりにしたくないから、今のうちに煙草吸ってくるよ」
地下鉄に乗る前にタバコを吸うため、阪急6階の喫煙所に向かった時田を追いかける。
「俺とミコの旅行代、後で払うから請求しろよ」
追いついて肩を並べながらそう言うと、時田は
「別にいいのにー。大した額じゃないしー」
とヘラヘラ笑って答えた。
大したことないと言ってはいるが軽く20万は越えているはずだ。
時々、こいつの金銭感覚のなさに、呆れることがある。
まあ、あれだけの大会社の跡継ぎなのだから、こいつにとってはこれが普通なのかもしれないが。
さっさと喫煙を終わらせた時田とミコと真由が待つ駅の構内に戻る。
柱の影にチラッと二人の姿が見えた途端、
「クソッ!」
時田が短く声をあげて走り出した。
視線の先には、ミコトと真由……それと二人を囲む見慣れない三人の男たち。
「………チッ」
その一人が真由の腕に触れたのを見て、俺もすぐに駆け出した。
「触るな!」
怒気を纏った時田が、男の手を凪ぎ払い、真由の前に立つ。
射殺さんばかりの目付きに、相手が怯んでいるのが離れた場所からも分かった。
滅多に見ることはないが、真由が絡んだときのコイツの怒りは尋常ではない。
コイツにとって、真由の存在が世界の全てなんじゃないかと思うくらいに。
すぐに追い付いて真由の後ろに立つミコトを覗きこむ。
「ミコ?大丈夫?」
「うん。私は平気」
少し青ざめてはいるが、しっかり頷くミコトにホッとしながら、真由を見ると、彼女も大丈夫だと言うようにうなずいた。
怒り心頭の時田の隣に並び、だらしない服装の男三人に向き直る。
必然的に背の低い彼らを上から見下ろしながら目を細めると
「な、なんだよ…」
彼らは少したじろいだように、一歩後ろに下がった。
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