おまけ リクエスト「幸せダブルデート」

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一樹side 真由の腕に触れた、男の手を払い、彼女の前に立つ。 「な、なんだよ。お前」 ジャラジャラと安っぽいアクセサリーをつけた男が、びくついたような声を上げた。 アホ面で並ぶ男三人を睨み付ける。 揃いも揃って下品で頭の悪そうな顔立ちをしている。 大方、祭りに乗じてナンパしていたのだろう。 やりたい盛りのくそ猿どもがっ。 「時田」 ようやく追い付いたらしい浅倉が俺の隣に並ぶ。 「少し落ち着け」 言い聞かせるように肩に触れた浅倉の手を払いのけて、俺は猿たちを睨んだ。 「薄汚い手で、触ってんじゃねぇぞ」 ギリッと奥歯を噛み締めて、拳を握りこむ。 怯えたような情けない顔に、 お前らが真由に触るなんて、10000万年早いんだよと、ますます苛立ちが増してきた。 俺は必要以上に彼女に触れない。 触れられない。 それは彼女をいつか手放さなければならないと分かっているから。 真由には誰よりも幸せになって欲しい。 誰よりも笑っていて欲しい。 だから。 真由に触っていいのは、この程度の猿なんかじゃない。 「殴られたくなかったら、さっさと失せろ」 言いながら一歩踏み出す。 さすがに苛立ったのか、奴らは気色ばんで俺をにらみ返してきた。 俺たちの周りに緊迫した空気が立ち込める。 苛立ちのままもう一歩踏み出そうとした途端、 「浅倉くーん!」 なんとも気の抜けた叫び声が駅の構内に響き渡った。 振り返って、呆気にとられる。 麦わら帽子をかぶったおっさんが周りの注目を集めて走ってくる。 ビシッとしたグレーのスーツ。首からはアニメキャラのスーベニアバスケット。 なんとも評価し難いセンスだが、タレ目で彫りの深い整った顔立ちには………見覚えがある。 「………高倉教授?」 唖然としながら確認すると、教授はハッとしたように立ち止まって、帽子で顔を隠し、逆再生のように引き返して柱の影に隠れた。 …………麦わら帽子がピョコピョコ目立つ。 なんだろうあの人。なにやってんだろう? 「浅倉っち、今教授に呼ばれてなかった?」 毒気を抜かれて浅倉を振り返ると、彼は高倉教授に心当たりがないのか、「さあ?」と首を傾げて眉を寄せた。 ポカーンとした間の抜けた空気が流れる。 気づいたら、猿くんたちはいつの間にかいなくなっていた。
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