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「シシ…」
微かに自分の名を呼ばれた気がした
「アトレア、アトレアなのか!」
少年は叫びながら暗闇の奥を、声のした方へ藍色の眼を向かせた
眼の先に映った巨木、その根に寄りかかるように一人の少女が座りこんでいた
髪は金色で色白い肌の少女、その綺麗な髪と肌に所々赤黒い血が付いていた
「怪我してるのか!すぐに手当てを…」
駆け寄ってくる少年シシを遮るようにとある方向に指差した
「私は…大丈夫…、それより…王紀様が…母様が」
金色の瞳から一筋の涙を流しながら、声にならないくらいか細い声でシシに語りかける
呼吸を整えながら、シシはアトレアの指先を、血の付いた指先を眼で追った
シシの表情が一瞬固まる
炎の光で真っ赤に輝いている王妃冠、その傍らに白の装飾衣に身を包んだ女性がうつ伏せで倒れていた
小国トルゴキアの王妃、そしてアトレアの母であるアリシア紀
「王妃様!」
シシがアリシア紀の元に駆け寄り、抱き抱える
「あぁ…そんな…」
シシの眼から涙が溢れ落ちた
アリシア紀の身体には一筋の切り傷が右肩から脇腹まで続いていて、彼女の衣服は彼女の血で赤く染まっていた
シシの身体が震えているのを見て、アトレアも自分の母の死を知り、か細く泣いた
アリシアの遺体を優しく置き、両手を腹の位置で組ませ、自分の羽織っていたマントでアリシアの身体を覆い、再びアトレアの方を向いた
「一体何があったんだ!アト…!!」
アトレアの名を呼ぼうとした時、シシの身体は硬直し、身体中から汗が吹き出した
と同時に兵士達の遺体の側に落ちている剣へと飛び付いた
「アトレア!逃げろ!」アトレアの背後に広がる木々の闇の中、そこに巨大な「何か」がいた
闇の中で光る赤い眼、そして大きな耳に大きな口、その口には鋭い牙が二本光っていた
「化け物め!…お前が王妃様を…!」
言葉を理解したのか、巨大な化け物はその問いかけに口をにやりと動かした
「よくも、よくもぉぉ!」
そう叫びながら剣振り上げ、巨大な化け物へと飛びかかる、が片手で弾かれシシは地面に叩きつけ9れた、辺りに鈍い音が響いた
苦痛に顔を歪め、体勢を立て直そうと立ち上がった瞬間、シシの顔に激痛か゛走った……
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