プロローグ

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   夜。天蓋のキャンパスに散らばった数多の星々が、淡く下界を照らしている。    しかし、その輝きに目を向ける者は、果たして幾人ほどであったろうか。  満天の星空の下に、大自然の明かりをはね除ける光が満ちているのだ。  ――東京は絢華市(あやかし)。その中心部である。    夜半となっても、都市は眠らない。目も眩む強烈な光茫がいくつも重なって、都市の外れまで零(こぼ)れていた。    圧倒的で、いっそ暴力的。人の私欲と傲慢とにまみれた、卑しい光彩。  まさしく、人の住む街。    細々と斜になって注ぐ灯りに、照らされる人影があった。  人影は、少年の輪郭をしている。中心部から少しばかり離れた市街地を左右に並べて、少年の人影は滑るように走っていたのだ。   「………………」    少年の走る場所は、絢華市の中でも比較的人気の少ないところである。  首都といえども、東京の全てが不眠の地という訳ではない。  
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